親子関係やパートナーとの関係でトラウマを抱える女性のこころのケア

モラハラ夫と話し合えない理由とは? ~ポリヴェーガル理論と状況の定義権~ 

 
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徳島市で女性のための心のケアをしています。身体やこころが縮こまっていたりしんどくなっている方がのびやかに生きられるようサポートしていきます。もっと詳しいプロフィールはこちら
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夫は仕事もして、子どもと遊んだりもしてくれる。

でも、子どもがぐずって大変と相談すると、「なんで、できないの?」

「子どもと一緒にいるんだから、簡単でしょ?」と言われて、

それ以上言えなくなる。

 

私が悪いのでしょうか? 

そう思ってしまうしくみと対応をお伝えします。

 

1.DVとは?

自分の感じていることをすぐに否定されると、

わかってもらえないと感じて、言葉に詰まってしまいますよね。

 

これだけでDVだということはできないのですが、

話をしても結局、私が悪いと思うしかない。

夫は批判するだけ、或いは責任は私にあると言う、

というのは話しえないという状況です。

 

DVって殴ったり蹴ったりすることでしょう?

と思っておられる方も多いのですが、

それだけではありません。

 

言葉の暴力も、もちろんありますし、同意のない性行為や

経済的暴力もあります。

これらの行動をすること、あるいは必要な行動をしないこと、

も暴力なのですが、

DVの本質は、支配とコントロールと言われています。

 

自分の意見が正しい、相手の言い分は間違っているとして、

自分の意見に合わせるよう有形無形な形で強制し、

従わない場合に様々な暴力をふるいます。

 

2.状況の定義は権力?

ある状況を名づけること、時には名づけを禁ずること、そしてそれ以外の定義を

許さないこと、それこそが権力である。権力とは「状況の定義権」だと

臨床心理士の信田さよ子さんは言っています。

 

例えば、仕事で新しいプロジェクトが始まったのだけど、

どうもうまくいっていない。相手業者さんは反対意見ばかりで

このままでは進まない、計画変更が必要だと担当者は思っている。

だけど、部長は相手が乗り気でないように見せているだけだ、

このプロジェクトは相手にとってもメリットが

あるのだから、どんどんいけと言っている。

やむなく担当者は、うまく行くようにあの手この手で取り組んでいく。

というような場合、このプロジェクトには変更が必要という担当の認識は

否定され、上司である部長の「状況定義-乗り気がないのは見せかけ」

が採用されています。

 

ですが、この部長の定義が的外れな場合は、いくら担当が頑張ってもうまく行きません。

あげくに、自分の失敗を部下のせいにする、なんて上司がいたことありませんか?

 

DVでも、夫は自分に状況の定義権があると思っています。

(意識はしていないかもしれませんが・・)

 

例えば、夫は「家事と育児は妻の仕事」と決めている。

あるいは、自分は仕事をしているのだから、煩わせないでほしい、

子どもの入浴をしている、先月は1回お皿洗いをした、昼食に料理を作った、

だから充分貢献している、と思っているかもしれません。

でも、妻は夫の帰宅時間がまちまちで、そのために子どものスケジュールが

めちゃくちゃになって、いっそう苦しい、と思っているかもしれません。

 

この齟齬を埋めるのが話し合いですが、

そもそも状況の定義を夫がしていたら、話し合いになりようがない、

ということになります。

 

3.DVとポリヴェーガル理論

モラハラ(主に言葉の暴力)であっても、数年前に身体的暴力があった、

あるいは、同意のない性行為をされた場合であっても、

暴力を振るわれた人は、闘争逃走反応が起きます。

 

闘争逃走反応が起きた時というのは、覚醒状態が上がります。

だけど、逃げることも闘うこともできない場合、固まります。

つまり、覚醒状態が下がり、低覚醒となります。冬眠状態のような

と思ってもいいかもしれません。

 

この低覚醒、単なる冬眠状態ではなかったりします。

何かあればすぐに覚醒状態がハイになるというのを含んだ

冬眠状態もあるのです。

 

一方で、暴力を振るう人はどうかというと、こちらも同じように

暴力は、闘争状態ですので、覚醒状態がハイです。

高いまま続く人もいれば、急激に下る場合もあります。

この低覚醒になった時に、謝ったりプレゼントを買ってきたりする

のかもしれませんね。

 

ポリヴェーガル理論では、人と関われるのは覚醒状態が50%前後の時

だと言われています。

DVの関係性だと、暴力を振るわれた人はもちろんハイとローを上下しますが、

暴力を振るう人も覚醒状態が乱高下します。

このような状態の二人が、話し合いをするのはとても難しいと言えます。

人と関われる状態、50%あたりで相手に接することが難しいからです。

最初は50%あたりにいたとしても、すぐ90や100になり、

かと思うと、10や20になります。

 

4.覚醒状態がハイやローになるのは生存本能

大昔、食料があまりない時代、人間も肉食動物に食べられる危険性も

あったと思います。

マンモスに会ったなら、闘うか逃げるかを瞬時に選んで行動する

必要がありました。

そうしないと自分が或いは仲間が食べられてしまいます。

 

考えるよりも前に選んで身体は動いています。

理屈はありません。

この、闘争逃走反応は危険だと察知すれば瞬時に対応します。

 

これがトラウマの回復にも影響を及ぼすのですが・・。

たとえ危険でなくても、危険かもと一瞬なれば発動してしまうという

フラッシュバックと呼ばれる現象となります。

 

5.家庭内別居ってうまくいく?

子どものことや経済的なことを考えると別居は無理だから、

と家庭内別居を選択される方もいらっしゃいます。

ですが、神経システムには伝わります。

安心できる時間が家庭で持てている場合はよいのですが、

いつもびくびくしていたり、なにかあればすぐに闘うか逃げるか

となる状態ですと、覚醒レベルはいつも上の状態です。

 

これはずっとアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態で、

身体に負荷がかかります。これらが、身体疾患につながることがあります。

 

暴力とは距離をおいた状態でトラウマ回復に取り組むことが大事なのは、

そういう理由でもあります。

いくらトラウマ回復を行っても、日常生活が

「ずっとアクセルとブレーキを踏んでいる状態」なら、

あまり効果を及ぼしません。

カウンセリングルームの中では回復したように感じても、

家に帰ればそんなことはふっとんでしまいます。

また、新たな暴力被害が発生すると、

対応するべきトラウマが増えていきます。

 

ですので、暴力にはまず距離をとるという現実戦略が必要になります。

別居を目指すのか、離婚を選ぶのか。

これをまず行いながら、トラウマ回復を図る必要があります。

 

6.親子関係の場合

親から侵入的な対応をされてきた、

あるいは必要なケアをされなかった、

何かいうと何倍にもなって返ってくる。

時には暴力もあったと言う場合にも、やはり距離を取る、

家の中での安全を獲得するという現実的な対策を

行うことが重要です。

 

7.どのように回復していくのか。

まずはリソースです。

自分の安全感を扱っていきます。

 

安全って何?という感じの方も多いかもしれません。

一日のうちでほっとする時間なんて、ない

気を抜いたら何があるかわからないから、

という方もいらっしゃることでしょう。

 

そうですよね。

そうやって自分を守ってこられたんですよね。

 

自分を守ってきたあれこれに気づいてもらったり、

身体の感覚に意識を向けたり、イメージを描いてもらったり。

安心する声や力になる言葉、あるいは自分にとって大事な言葉など、

どんなものがあるのかを探究していきます。

 

これらを少しずつ一緒に行います。

急激にするのは安全ではないことだからです。

 

また、暴力のしくみや関係性についての認知的なことを

お伝えすることもあります。

 

傷ついた自分をケアし、暴力の中で頑張ってきた自分に気づくことで、

新たな道が見えてくるかと思います。

その道のりをご一緒できたらと考えています。

 

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