お母さん、どうして子どもを助けなかったの? という問いで見えなくなってしまうもの
児童虐待の背景にあるDVが大きく報道されています。
報道によると、「お母さん、子どもを助けられなかったの?」
という検察官や裁判官の質問が続いています。
子どもに自分を重ねる人もいる
お母さんに思いを寄せて心震える人もいる
お父さんの立場に立つ人もいる
DVの構造とその問いが隠してしまうものをお伝えします。
お母さん、どうして子どもを助けなかったの?
助けないお母さんが悪くて、責任があるような
言い方をする発言がよくあります。
例えば、「お父さんが子どもに暴力を振るうのなら、
せめてお母さんが助けてあげるべきだ。」
「一緒にいるもう一人の大人であるお母さんが
しっかりしてほしい。子どもは自分ではどうすることもできないのだから。」
あるいは、「お母さんなんだから、自分はどうなってでも
子どもを助けるべきだ」
このように言う人が意外にも多いです。
一方で、あおり運転の事件や殺人事件では、
どうして犯人はそういうことをしたのか?
に注目が集まります。
だけど、痴漢をはじめとする性被害では、
被害者に注目が集まります。
どうして、被害者はその時その場所にいたのか?
その服装で、とか、なぜ逃げなかったのか? などが
報道の多くを占めていきます。
DV事件でも、同じ傾向があります。
お母さんはDVの被害者であるのに、
子どもに対する加害者としてだけ扱われる。
被害者の部分は全く抜けて落ちてしまい、
加害者として責められる。
お父さん以上に。
「どうしてお母さん助けなかったの?」は、
お父さんの加害者性をどこかにおいてしまう。
「お父さん、どうして妻に暴力を振るったの?
後が残らないように、巧妙なコントロールをしたの?
子どもを、暴力で従わせたの?」
という声があまり聞こえてこない。
暴力は振るう人しか止められない
周りが暴力を止めるのはどんな場合も難しい。
中学生が先生から注意されて暴力を辞めた。
一見、注意が暴力を止めたと見えますが、
先生の注意によって、この中学生が暴力を辞めると
決めたから、暴力が止まったのです。
暴力を振るうという行動を変えられるのは、
それをしている本人です。
周りからの働き掛けは、やめようという思考や
認知に影響を与えますが、やめるのは、
暴力という行動を選択している当人です。
まず一番に聞くのは、
「お父さん、止められなかったの?」だと思います。
DVでお父さんの支配下に置かれていれば、
お母さんが止めるのは難しいです。
お父さんの言うことは絶対正しいという
世界で生きていたら、反論などできないと
思います。
反論するのはほとんど命がけ。
加えて、子どもをだしにしてきますから、
身動き取れなくなってしまうでしょう。
『殺される』と思ったというクライアントさんは
何人もいます。
夫と一緒にいる時は、夫の言っていることがおかしい、と思わなかった。
従うしかない、と思っていたという人も多いです。
離婚するなら子どもは渡さない、と夫はいいます。
子どものことを大事に大事に思っている母だからこそ、夫はいうのです。
親権はとれない、とも言います。
妻は働いていないから。
育児ができていないからと言います。
その言葉に、どうすることもできない、
と思ってしまう妻は多いです。
文句があるなら、「自分と同じぐらい働いてから言え」
これもよく出てきます。
お父さんも、いろいろなことがあったのだと思います。
社会との違和感を感じていたり、受け入れられないと
思っていたのかもしれません。
お父さん報道がとても少ないので、
どんな人なのかが、全くわかりません。
それだと再発防止には何をすればよいのか、
が見えてきにくいです。
どうしたら、子どもが死なずにすんだのか。
お母さんの頑張りを叱咤激励するだけでは、
防げない。
お母さんはすでに頑張っています。
これ以上頑張れなくて、困っているのだと思います。
DVの渦中にあるお母さんたちを追い詰めることにならないか、
心配です。
「どうして、助けを呼ばなかったのか?」
と言われます。
助けを呼んで、助かることがはっきりしているのなら
そうしたと思うのです。
子どもは児童相談所に保護されても、助かっていないです。
お母さん、子どもをちゃんとみてくださいよ、と言われる。
子どもが保護されて、お母さんは楽になっていない。
自分のするべきことが増えたように感じたり、
自分が頑張るしかないと思ってしまったのかもしれません。
子どもを保護した際に
DVのアセスメントを行っていたのか?
父親が児童相談所に現れないのに・・
アセスメントも、どう聞くかが大事です。
「困っていることない?」と聞けば「はい」
で終わってしまうでしょう。
話の流れで聞くことが大切であるし、
子どもへの虐待の状況から夫の暴力の態様を推測して
尋ねることが重要だと思います。
チェックシートに基づく聞き方も必要ですが、
相手との信頼関係を築いた上で行うことが重要。
マニュアルで聞くなら、現状とは違った答えになることも
大いにあると思います。
本当はしんどくても、大丈夫、というのが
DV被害の女性たち。
しんどい、と言っていいのかわからない。
何か面倒なことになったら、夫からどんな目にあうか。
その方が怖いから、ごまかしてしまう。
自分自身をだましだまし暮らしているところもあるから、
そんなもん、で終わってしまう。
暴力を振るう人に、加害者介入プログラムが必要
DVの発見に特効薬はないように思うけれど、
暴力の構造を知る人を増やすことや適切なアセスメントの
機会を提供することで少しずつ早くなるのではないか。
一方で、加害者に対する介入プログラムが必要です。
何が暴力で自分のしていることがどういうことなのかを
わかってもらうためのプログラムです。
欧米では裁判所命令でプログラムを受けることと
なることもありますが、日本では法律がありません。
DV防止法にはそういうシステムがありません。
だからといって何もしない、では、
加害者は自分のしていることを悪いとも思わない、
暴力と気づく機会もないまま過ごしてしまいます。
DVであることがわかったら、加害者がプログラムに行く。
すぐに考え方は変わらなくても、暴力という行為は辞めなければ
いけない。そうでなければ、プログラムを受講できないからです。
せめて直接的な暴力や暴言が止まるのなら、と
思う被害者はどれだけいるだろう?
そうなるのなら、周囲に相談するだろうし、
助けてほしいという人はたくさんいるでしょう。
相談にくるクライエントさんの多くは、
「夫に変わってもらいたいのです。離婚したいのではありません」
「夫が暴力を辞めるのなら一緒にいられるんです」
とおっしゃいます。
残念ながら現状では、一部の民間機関による加害者プログラムが
実施されていますが、いつでも誰でも受けられるという状況には
ありません。
この状況を変えていくことが急務です。
虐待加害者のプログラムとDV加害者プログラム、
これらが被害者支援と有機的につながることが、
子どもを笑顔にしていけるのではないでしょうか。
内閣府の調査では3人に1人の妻が被害にあっている
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等の法律(DV防止法)が
2001年にできてから、内閣府は3年ごとに調査を行っていますが、
この数字は、ほとんど変わっていません。
最近では、妻による夫へのDVもあることがわかっていますが、
依然として女性被害者の数が多いのも事実です。
あなたのママ友は何人いますか?
5人いれば、そのうちの一人がDVにあっているという数字です。
DVには殴るけるなどの暴力だけではなくて、
精神的暴力もたくさんあります。
また、性行為を断れないと思っているなら、
夫との間に支配とコントロールがあるかもしれません。
あるいは、断ったら、後がめんどくさいから、
その間だけと我慢している状態ですか?
それなら、そのたびごとに、自分を削りとられているかも。
夫と別離れると、生活がやっていけない。
子どもの教育費もまだまだかかるし、子どもが望む学校に
いかせてやれない。習い事だってさせてやりたいし・・。
しんどいな。このままでいいのかな?
時々やってくる思いを振り払っていたりもします。
身近にいるかもしれないDV被害の女性に
しんどくない?
頑張りすぎじゃない?
一緒に考えよう
と声をかけてもらえたら、話してみようかなと
思うかもしれません。
自分だけで解決しようとしないで、
地域の配偶者暴力相談センターに一緒にいくとか、
相談することができます。
公的機関はちょっと敷居が高いと思われるなら、
このサイトをご紹介くださったらと思います。